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草津温泉の晩秋

2016.11.25

大学時代のオーケストラの後輩が女将を務める草津温泉のホテル櫻井に宿泊。もう数年前から計画していたのだがやっと実現した。まず温泉の中心エリアの「湯畑」をひとまわり。近頃出来た、町営の回廊広場と温泉(御座之湯)の和風建築が湯畑の正面に位置し、草津温泉地らしさと落ち着きを醸し出している。

回廊広場は高低差を利用したイベントに対応できる広場で、周りを回廊が囲みスケール感が良い。「御座之湯」は映画「千と千尋の神隠し」に出てくる浴場に似ており、なかなかの雰囲気である。その間の直線の階段上には光泉寺があり、中心エリアが見わたせ、草津に来た事を実感させる。湯畑から四方に道は延びており、途中で分かれたり合流したりで、様々なお店に出会える楽しい廻遊路である。

良い温泉地の条件としては「見下ろしの風景」と「廻遊の楽しさ」の両方を備える必要があると強く感じた。

さて、ホテル櫻井は大型の建物が高低差の大きい地形に作られ、庭はその斜面を活用したダイナミックな造形である。既存地形の植生である松林はそのまま残し、造成法面部は自然石を積み上げ、自然らしさを演出している。女将に作庭者を聞くと小松市(石川県)の岩谷浩三氏とのこと。私は岩谷さんとは生前さんざん飲んだ中であるが、京都の庭師以外で初めて造園学会賞を受賞した強者である。若い頃に裏千家で修行しており、お茶の師匠としても活躍した文化人でもあった。小松では繊細な作りの茶庭を見学したが、ホテル櫻井の庭は雄大なスケール感を持った庭園で氏の持つ二面性に遭遇した。正面の滝は立体的で大振りな石を使い豪快だがきめ細かく作り上げており、松林とのバランスも良い。流れ部の水も温泉と同じく掛け流しで水音が気持ちよい。土留めにした石組も機能的なだけでなく、力強い造形で連続させており見応えがある。飛石、石橋とのバランスも良いのだが、建築との関係が希薄なのが残念である。室内から庭園が見える場所を作っても良いだろうが、窓も無く室外への出入り口も整理されていない。建築家が岩谷さんを紹介したと聞いたが、コラボレーションはどうだったのであろう。

今回は紅葉が終わっており、高く積もった落葉と延びすぎた低木が石組を隠しており、本来のデザインが見えなかったのが残念だったが、次回訪問の理由を見つけられたようでもある。

戸田 芳樹

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