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東渕江庭園を見る-2

2016.09.13

■庭園最深部からの見返し
そして、庭園の西端の明るい芝生空間へ。建物からの軸線の終点で、2m以上盛土された峠からは芝生の緩やかな斜面と池の水面の先に建物が見え隠れする。中規模の庭園であるが一軸を大きく敷地の端まで延ばし、とても広く感じる。古い庭園ではここまで思い切った手法はあまり見たことがない。

この峠を越えて優雅に曲がった園路を下って行くと、明から暗の空間へ変化する。園路はタタキのようなコンクリート舗装を主体に、自然石を飛石風にランダムに挿入し、味わい深い表現をしている。そして所々に立ち止まって眺めるアルコーブを設けているのも洒落た表現だ。

■臨渕亭の待合と小能舞台
樹林を抜け橋を渡ると茶室、臨渕亭の待合に至る。ここからの池の眺めは最適で座る高さも水面に合わせて低く、親水感を高めている。さらに池に浮んで見える延段の意匠が新鮮で、空間の親密性も感じられる。ここには小さな能舞台のようなデッキがあり、眺望のポイントと共に見られる装置にもなり、「見る、見られる」という日本庭園のデザイン原理を実践している。この舞台からは小振りな滝や護岸が見え、富士山型の岩島も何気なく置いている。富士山型の石や正方形の飛石等は小堀遠州も好んだが、氏は遠州へのオマージュがあったのであろうか、本人に尋ねたいと思った。

その先は意匠を凝らした敷石や飛石に沢飛石も加えた園路がこれでもかと続き、小形のこだわりを見せつける。最後に何気ない雑木林が私達を迎え、廻遊のドラマを振り返るスタート地点のテラスにはベンチとテーブルが用意されている。この東渕江庭園は公共空間としては小振りだが、多くの要素を組み込んだデザイン性の高い作品で、小形研三が到達した最終の成果のひとつではないかと私は思った。

■課題と成果がおりなす
もう少し作品の内部に接近したい。まず感じたのは建築と庭園の意思疎通が無く、バラバラに作られている点である。敷地を単純に東西に分けた上に、建物のスケールが大きすぎて調和が取れていない。そして周囲の住宅地との関係性は見て取れず、博物館の付属庭園としては成立するものの、地域に対する公共サービスは物足りない。もう数カ所庭園への出入り口があり近所の人々が使っても良いのではなかろうか。

問題はあるが東渕江庭園は小形研三のエッセンスがつまっている。小さな敷地に長い軸線を設け雄大な空間を手にし、最長の廻遊路も設けた。軸線にも景観の変化を加え、廻遊路は明・暗を繰り返し変化と流れでシークエンスを作り出し、舗装の変化で場の違いを見せる等、日本庭園の技のデパートともいえる作りだ。その上、小形が苦心したのは日本庭園に公共の仕様とモダンデザインをいかに融合させるかであった。建物に接する空間で直線主体のモダンなデザインが対応しているが、細かな部分でも工夫を凝らしている。また公共の仕様はこの時代では緩かったのか、車椅子での全体の廻遊がなされていない。

小形デザインのもうひとつの特色は小さな敷地に多くの要素を無理なく取り入れ、日本庭園の楽しさを分かり易く展開している事があげられる。築地塀、船着場、滝、流れ、園路、待合、能舞台等は敷地のスケールに合わせて小振りで緻密なデザインとしている。雑木を中心とした樹種を選び特に池辺にモミジ等の柔らかく爽やかな植栽計画は素晴らしく、小形特有の世界が展開している。

■エピローグ
外部から直接茶室に入れる事に注目したい。小形は博物館から日本庭園を独立させ、ひとつの世界を作ろうとしたのであろう。庭園の入口があまりに貧弱だから、茶室はなんとか独自性を持たせたいと考えたのであろう。入口部が地域のスケール感と調和し、その生活感が感じられるのが心地良い。

現在では各ジャンルとコラボレーションする事は常識であるが、小形の生きた時代はコミュニケーションを重ねる事は少なかったであろう。その状況下、長年戦って成果を出し続けた先輩達の奮闘に感謝申し上げたい。

戸田芳樹

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