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東渕江庭園を見る-1

2016.09.13

■プロローグ
足立区の北東部、開けた地にある東渕江庭園を見学した。庭園(2,500㎡)は郷土博物館に併設されており、昭和の名匠小形研三の晩年の作品である。小形はオーストラリア・ブリスベーンで1988年12月に客死しており、その2年前(1986年)の作品。庭園は小形らしいきめ細やかな構成と意味を込めたディテールに彩られ、その上に軽やかな自然風の植栽が展開し、鑑賞者の心を幸せにしてくれる。

「なんて優しくて、清らかで、その上伝統を踏まえているのだろう」と庭園愛好家なら誰でも頷く空間の連続である。氏は設計事務所と工事会社を経営していたが、そこは「小形学校」と名付けられ多くの教え子と共に作品を作り続けた。その代表的な作品のひとつ東渕江庭園を見て行きたい。

■コラボレーションが感じられない作品
千代田線の支線北綾瀬駅から特色のない住宅地を20分程歩くと、みどりの塊が見えて来る。東渕江庭園の入口は東、中川から引いた水路側にあり、歩道、並木の設えが倉のデザインを引用した博物館によく似合う。広い前広場を通り、高く吹き抜けたロビーに到着。その正面に庭園が見えるので、早速出ようとするが扉がない。庭園には建物の脇の隙間を通って入ると聞いて愕然となる。同じ敷地に有りながら建築とランドスケープは有機的に繋がらず、各々別物として計画を進めたようだ。入口広場の空虚な広がり、大きすぎる建物、1980年代では建築とランドスケープのコラボレーションは夢だったのか。

■庭園の構成とモダンデザイン
気を取り直して庭園に入ると重要なテラスに到着、ここから庭全体の視覚誘導は素晴らしく、空間の大まかな構成が分かる仕組みだ。庭園の長軸上に手前からテラス、池、芝生と奥に誘導し、左右の植栽の絞りで遠近感を強調、勾配を付けた芝生で奥行き感と立体感を演出している。狭い空間でありながら明るく、広く、豊かなボリューム感の創出は庭園作家の領域を超えランドスケープアーキテクトの手業と見たが中々の見応えである。

テラスは小形得意の雑木林とし、足元は渋い芦野石、表面の仕上げを変化させた上に高低差を付けている。小形はこの作品で日本庭園の伝統デザインをベースとしたモダンなデザインをいかに作り上げるか、苦心の跡が見て取れる。

テラスでは直線主体のデザインと舗装ピースの大きさでモダンデザインを、材質と仕上げ感で伝統を表現したのではないかと想像をめぐらせた。テラスにテーブル、椅子を置いているが、建築の内部からの眺めをいかにも無視しているように感じるのは私だけであろうか。

■廻遊式庭園のおもしろさ
廻遊式庭園の廻り方は古来左右両方あるが、ここはどちらなのか、歩き出す前に疑問が生じた。正面から見ると右側に築地塀があり、ゲート的な表現が感じられるのでまずそちらから左回りに歩く事とした。建物に近い空間のランドスケープデザインは建物の秩序に合わせ、遠くになるに従い徐々に自然なデザインに変化させるのは常識である。築地塀が建物に平行で関係性の深いデザインと見て取り、こちら側がゲートであると考えた。築地塀の手水鉢は必然性に欠けるが全体を露地と見立てた構成なのだろう。手水鉢は大きくシンプルなデザインで、モダンな観修寺型燈籠との組み合わせは一連の作法である。築地塀付近は樹木が多く少し暗く絞られ、そこを通り過ぎると明るい船着場へ。ここは長い石材を効果的に用い、階段状の親水空間としたモダンなデザインで、藤棚、舗装、池泉が和風でありながら洋風の公園らしさを感じる空間である。この感覚は小形が住宅庭園だけでは飽き足らず規模の大きい公共空間を長年扱っていた技術のたまものであろう。

そこから細い路にいざなわれ暗の空間に入る。少し勾配のついた路は流れと共にあり、橋を越えて左右の水に接し、耳を澄ませばせせらぎの音も聞こえてくる。路の幅は狭く小さな曲がりを多用し前面の景色を見え隠れさせ、先に行くのが楽しみなシークエンスである。流れには大きな石組は少なくモルタルで河床に変化をつけ、流速をコントロールしている。

源流部のしっかりと造形した滝石組に到達。今まで小振りな石を多数見ていた後で大きい石組に接する効果は大きいが、石組は繊細に作られ、水を細かく左右に振った造形には作者の心がこもっている。

戸田芳樹

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