桂離宮を見た-4
2013.05.23
園林堂から橋を渡ると左手に四角に入り込んだ池があり、その向こうに笑意軒が姿を現す。護岸については笑意軒側は建物に平行、手前は園路に平行で、肉眼では分からないが大池に向かってほんのわずか開いた地割りである。その微妙な開きが視覚を矯正し、落ち着いた自然な風情をもたらしていると私は見た。
笑意軒は茅葺き寄棟に杮葺落の庇を付けた屋根を持つ田舎屋風の茶室である。手前に敷かれた長い延段は「草の飛石」と呼ばれ、とてもシャープでモダンなデザインとなっている。また、直線の護岸は舟着き場としての機能を持つと同時に建物を際立たせ、底辺だけの額縁的な役割を担っているのではないだろうか。
室内は南西の光を充分に取り入れる大振りな窓を持ち、完成当時では田園風景が見渡せ、農夫の働く姿を楽しんだ事であろう。腰壁の張付けは市松模様のビロードをベースとし、金箔が大胆に切り裂く斬新なデザインで知られている。
書院の方に移ると広々とした芝生地が広がる。ここは馬術、弓道、蹴鞠を行うスポーツの場で、建物に向かって一直線に飛石が打たれているダイナミックな空間である。書院にアプローチする飛石は、作庭の本に書かれている定石を全く無視したデザインで、現代にも通用するモダンさを主張している。
最後の茶屋の月波楼に歩を進める。月波楼は名前の様に月見の為の茶室で、書院の軸と同じく東方に開き石垣の上に建っている。「中の間」から広がる水面の先には松琴亭が望まれ、襖の市松が遠目にも鮮やかに見える。日本庭園における建物はお互いに「見る、見られる」の関係にあるが、その中でも代表的な好例としてあげられる。この露地の蹲踞には鎌の形をした鎌形手水鉢があるが、これは秋をテーマとした月波楼にふさわしいもので、実りの秋の収穫を表現している。
最後は中門と輿寄前庭の空間を楽しんだ。この前庭には「真の飛石」と呼ばれている延段や飛石、生垣、中門を配置しているが、書院に対して平行、直角のものはひとつもなく、全てを微妙にずらしている。そして庭を広く見せる為、遠近法の手法を建物の柱間や飛石のデザイン等で展開。中門から出た方形の4つの飛石は手前から少しずつ小さくなっており、目地は少しずつ広くしており、実際に飛石を測ると3の石から4の石は5m/m小さなものとなっている。
手水鉢と燈籠はそれぞれの門のフレーミングにより見事な効果を出している。おもしろいのは傾斜地に建つ織部燈籠が手前に傾いているのを発見した事である。普通この角度で写真を撮らないから気が付かなかったが、正面から見た時に後ろ側に倒れて見えない様に前のめりに修整したのであろうか。
2時間弱でゆっくりとひとまわりしたが、空間から受け取る情報量が多すぎて頭痛がしてきた。観賞しながらゆったり楽しむより、貪欲に学ぼうとした報いが頭に来てしまったのかも知れない。これだけ緻密につくられながら、コセコセしないのはベースに源氏物語の世界を展開しようとしたコンセプトがあり、その底辺に日本の四季と人々の営みを融合させようとした土着的なポリシーが存在したからと読んだ。今回、浅学の身を恥じながらの廻遊であったが、次回は景観軸の確認、空間の粗密のシークエンス、サウンドスケープ、風の流れ、高さの変化のシークエンス、建築と庭園の意匠の関係性など、もっともっと読み取りながら歩いてみたいと思った。
終わり
戸田芳樹