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桂離宮を見た-3

2013.05.01

飛石を進むと左手に織部燈籠が置かれ、その奥に小さな滝と玉石を置いた浅い流れが低く見える。この流れは、源氏物語に出て来る大堰川の景色になぞらえたもので、小さいながらも緊密感ただよう風情が感じられる空間である。

そして水音を聞きながら前方の石橋を渡ると空間が突然開放され、桂離宮随一の風景「天橋立」が目前に大きく展開されている。飛石伝いに少しずつ水面に近づくと180°のパノラマ景観に体が包み込まれる様な感覚が生じる。カメラを構えると、まるで練達のモデルの様にポーズが決まっている。わざとフレームを意識せず数枚ランダムに写したが、どれを見ても絵になっている。何とも恐ろしい空間を造型したものだと思わず立ち尽くしてしまった。

この風景の誕生は智仁親王の奥方に対する愛情から生まれている。奥方の常照院は丹後京極家出身であり、その生まれ故郷に思いをはせ、名勝天橋立を庭園化して親王がプレゼントしたという心暖まる物語がそこに見られる。近世の大名庭園は奥方を喜ばす「フェミニズムの庭園」だと述べている野村勘治氏の言葉がやっと腑に落ちた気分であった。

山裾を細かく登り降りし、松琴亭を右手に見ながら歩むと正面に見事な石切橋が現れる。長さ6メートル、巾65センチ、厚さ35センチの加工された白河石はかなり高い位置に架けられ、渡るのが恐い感じだが、みんなは何気なくスムースに渡り終えた。心理的に何か特別のしつらえがあったのか。それは優しい感じの橋挟石、厚みのある石橋の重量感、登って渡る安心感、色々と考えてしまうが、本当の事は分からない。
この石橋を渡りきるといよいよ松琴亭の露地に入るが、そこから振り返って見ると奥まった空間が味わい深い。あまり本に紹介されていない目立たない場所だが、州浜と石組が立派で、桃山時代の豪華な手法がこんな所にも見られるのはさすが桂離宮と言える。

松琴亭は茅葺き入母屋造り、三方が開放され風通しが良く、北に面して暖をとる竈(くど)を外部に構えている。この縁側から見る庭園も絶景で、見られる側として価値のある空間は、見る場所としても秀れている日本庭園独特の構成法がここでは見られる。縁側に座れば、右手は細やかな島や橋の風景、左手は書院を望むダイナミックな風景、どの角度でもベストショットになってしまう。松琴亭内部の青と白の有名な市松模様のふすまは、大胆な意匠で外部の自然ない雰囲気とは別世界を構築している。

松琴亭を去り、橋上から見ると南側の機能空間としての建物は意外にシンプルなデザインなのに驚かされる。そのまま山道を進むと賞花亭に到る。この地は庭園内で最も高く、水面より5.5メートルの高さで、峠の茶屋としての風情をかもし出している。見下した所に鉄鉢型の手水鉢が可愛いランドマークとしてあり、これらの細やかな気遣いが日本庭園の醍醐味である。
このあたりから見る書院は特に美しく、見飽きない風景が連続している。しかし、学生の頃よりモミノキが大きくなりすぎ、建物とのバランスを崩しており、何らかの管理が必要とみられる。

さらに進んで行くと桂宮代々の御位牌が祀ってある園林堂の脇に出る。ここの飛石の造形は見事なもので、今まさに生まれたかの様なモダンなたたずまいを見せている。園林堂の雨を受ける雨落には小石を敷き詰めて機能させ、方形の飛石を微妙に揺らせながら配置している。これは重要な建物に附属する施設としての緊張感を表現したい方形の飛石と、全体が優雅で遊び心に富んだ空間を揺らぎで表現したいと考える両方の思いを重ね合わせると、この様なデザインになったのではないかと推測するのはうがりすぎなのだろうか。

さらに続く

戸田芳樹

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