桂離宮を見た-2
2013.04.22
御幸門から右手へ、書院に向かう直線の御幸道を進むと、前方にむくりのついた土橋が見えてくる。書院中門手前に架かるこの土橋は軸を少しずれ、わずかに橋の側面が見てとれる。そのわずかなずれが遠近感を演出して書院への距離を長く見せ、空間を広く、また格式を高める効果を表現している。
その手前から松琴亭を目指し、時計廻りの観賞順路に基づいて進むこととした。まず御幸道の途中を左折し、紅葉馬場を進む。さらに左方の飛石を伝い外腰掛の方向に進む。ここから松琴亭に至る露地空間と庭園風景は日本庭園史上最高のシークエンスの展開である。その順路に従い庭園構成の大きい意味と細部のこだわり、工夫を楽しみながら進んでみたい。
紅葉馬場からの大振りな飛石は山野の風景というより、格式のあるまちの風景を想わせ、目的地の外腰掛に負けない存在感を出している。この茅葺寄棟の外腰掛を中心とした空間は周囲を築山、生垣、高木に囲まれ、周囲から遮断された清逸な別天地として特別な趣をかもし出している。
ここでの最大の見せ物は、空間をつらぬく延長9間(約16.4m)のダイナミックな延段の存在である。この軸は松琴亭に向いているが、正面の低い築山と樹林により建物は周到に隠されている。その演出は後でみられるパノラマの風景により絶大な効果が生まれることとなる。
この延段の巾は手前が88cm、奥84cmと狭く、遠近の技法をストレートに使っている。その上延段の中間を過ぎたあたりから生垣と築山を左右から接近させ、より狭い空間の演出と遠くに見せる景を作り出している。
この印象的な延段は加工した石材と自然石の組み合わせにより、高く打たれ美しいプロポーションを持ち、囲われた柔しい空間に存在感をかもし出している。興寄前庭の有名な畳石を「真の飛石」と呼ぶのに対して、「行の飛石」と呼ばれている。この延段の手前と奥には、それぞれ手水鉢、燈籠等を置き、視点を誘導しアイストップの役割をはたしている。そのひとつ、二重桝形の手水鉢は四角形の外枡の中に直角にクロスした中枡でかたち作っている。冬には中枡まで水を入れ、夏にはさらに外枡まで一杯に水をたたえ、風情の変化を作りだした秀れた一品である。
また、植栽についても述べなければならない。ソテツ山と言われる様にここの築山にはソテツをまとめて植栽している。桃山時代から庭園には子孫繁栄の縁起の良い植物としてソテツが使用されたが、一般には単木でオブジェ的に扱われる例が多い。しかしここでは群として使われており、異国情緒あふれるダイナミックな風景となっている。八条宮家の後々までの繁栄を願ってソテツを植栽したのだが、後に相次ぎ当主が病死し世継ぎがいなくなり断絶したはかない歴史が残された。
「行の飛石」の奥まで到達すると左手からかすかな水の音が響いてくる。ここを左に曲がると、桂離宮の最大の見せ場が待っている。
続く
戸田 芳樹