桂離宮を見た-1
2013.03.22
40年ぶりに桂離宮を訪ねた。ワタリウム美術館「庭園倶楽部」の主催で、進士五十八先生が講師をした秀れた企画であった。
感想を一言で述べれば「圧倒的な体験」と表現したい。当日は天気も良く寒くもない見学日和で、穏やかな水面と青々とした緑の包まれる庭園はのどかそのものの風景であった。
しかし、ランドスケープアーキテクトの視線にはすさまじい量の情報が存在し飛び交い、それを受け止める私の肉体も精神もクタクタに疲れてしまった。40年前の自分には見えなかった空間、感じなかった空気に触れた2時間は人生において貴重で気持ちの良い体験であった。
まずは外側から見てみたい。表門の左右に竹穂垣(私はこれを桂垣と思っていた)が100m程続き、製作して10年以上経ているであろう竹にはエイジングがかかり、落ち着いた周囲の風景に透け込んでいた。この竹穂垣は製作技術が最も難しく、私の職人時代に一度は体験してみたかったあこがれの垣であった。
次は桂川に面して作られた桂垣を見た。これは淡竹(はちく)を生きたまま折り曲げて斜めに編んだ生命を持つユニークな竹垣である。建仁寺垣をベースにした表面にふさふさした竹の葉を差し込み、しっかりと固定したもので大変美しい。しかし裏側から構造を見ると悲惨な状態で竹が折られており、まさに表と裏の違いを徹底している、恐ろしい竹垣でもあった。
では、庭園の中に入ってみよう。表門から現在は入る事が出来ないが、入って真っ直ぐ歩くと道の突き当たりに御幸門が配されている。当社の設計の仙寿庵庭園(群馬県たにがわ)の入口に使わせていただいたのがこの本歌である。門の左右の生垣は低くおさえ、背後の生垣を高くしてバランスを取っているのが美しい。
桂離宮の園路は直線を多用しており、数本の重要な軸線をたどると敷地の東南隅に集結する大きな軸組みで全体を構成している。地上部に居ればこの構造を具体的に理解出来ないが、何かの意識(方向性か)が絶えず働きかけている様な感じを受け取った。小さなスケールにおける軸組みのデザインも多くあり、重要な空間においては飽きさせない景観構成が組み込まれているので注意深く見てみたい。そのうえ、軸は各々直角に交わらず少しずつ角度が変化しており、現地で感じる不思議な空気感はその揺らぎの効果なのかもしれないと時間が経てから思い出された。
桂離宮が作られた江戸時代の初めはキリスト教、つまり西洋文化が様々なかたちで入って来ており、庭園も影響を受けたとされている。大胆な軸線の構成、ビスタライン、ランドマーク、遠近法など西洋で発達した庭園技法を翻訳し、日本の伝統庭園技術と重ねたテクニックの数々をこれから廻遊しながら見て行きたい。
続く
戸田 芳樹