映画「東京家族」を観てきました
2013.02.28
山田洋次監督の「東京家族」を観てきた。この作品は、小津安二郎の名作「東京物語」(昭和28年)のオマージュとして作られた。私の自慢話のひとつに尾道の実家に小津のロケ班が陣取り、狭い我が家の庭が映像に登場した時のいきさつがある。当時5歳の私は大勢の人を見て興奮してカメラにまとわりついていたらしく、「坊やあっちに行ってろ」と叱られた事を憶えている。また、若き香川京子さんが遊び相手になってくれた事が懐かしいが、なぜか原節子の記憶が全くない。
そんな思い出を胸に、映画の世界に入り込んだ。「東京物語」とは全く同じ尾道弁の台詞があり、ストーリーの展開や、カメラアングルも小津の世界を思い出させる。懐かしさがいっぱいの世界を体験した。ストーリーは成人した子供達3人が住む東京を訪ねた老夫婦が、日常生活に追われる彼らとゆっくりと向き合う間もなく、長男の家で老母があっけなく死んでしまう。この老母が68歳であった。今の私には少々抵抗感があったが、昭和20年代ではこの年齢は立派な老人であったのだろう。戦後、大家族が分解し、各々が自分の生きる道を見出し、家族と別れる姿を淡々と描いたのは旧作同様であった。
私は「東京物語」に思い入れが強いので、様々なシーンを楽しむ事が出来たが、どうも旧作の輝きと深みが感じられなかった。ひとつだけ取りあげれば、戦死した次男の未亡人役、原節子の存在であろう。戦争という国家の行為と個人の死を受け入れ、父や母に対するあふれんばかりの愛。そして自らの将来に不安と希望をいだく気持ちを笑顔に隠す圧倒的な演技を現在の女優に求めるのは酷なのかもしれない。
日本人の精神もこの50年で大きく変わったが、体格の変化も著しい。原節子しっかりとした体型、太い腕、そして全てを受け入れる愛にあふれた満面の微笑み。日本がこの50年で失った大きな財産を、この映画で思い知らされた。
戸田 芳樹