日本造園アカデミー会議に参加して−3
2010.09.07
富山市内からバスで40分程度、立山中宮寺の宿坊、教算坊の庭園を訪ねた。
参詣者登拝の拠点として、宿泊のみならず宗教的儀式、登山案内等を行った施設が教算坊です。
入口から建物までのアプローチ空間が庭園で、豊富な水を活用した滝、流れ、池泉が深い木立の中に上手く納まった静寂の空間でした。
樹齢300年クラスの杉が林立したダイナミックな景観と、苔むした風情は立山の歴史や自然をダイレクトに感じさせ、私達を圧倒しました。
私は庭園と建物が接する部分の意匠、石組みに注目しました。
建物が庭園よりかなり高く配置されておりその高低差を階段と石組み、蹲踞で処理している空間に新しいデザインを感じたのです。
直線の切石、敷石、階段を設けた上に有機的な形の自然石を組み合わせた空間です。
苔むした古い佇まいがありながら、現代的な感性が空間を支配しているのはなぜであろうか。
古来日本人は自然石を巧みに扱い、様々な表現を石組みに託して行ってきた。
近世に入ると、小堀遠州に代表される直線の意匠が、桂離宮や仙洞御所で効果的に用いた例もあった。
しかし近代以降、自然主義的な庭園が主流を占めるに従い、直線的意匠の影は潜み、曲線の柔らかいデザインの庭園が多く作られて来ました。
現在、庭園の作り手は自然石だけ使った石組みでは造形が自然に埋没してしまい、作者の意図が表現できないと感じているのではないだろうか。
また逆に、切石等を多用した直線的な意匠は、空間が硬くなってしまい、度重なる出会い、観賞に耐えきれないと、感じているのも確かです。
イサムノグチ氏のパートナーとして活躍して来た和泉正敏氏の造形が、今日受け入れられている理由は良く理解出来ます。
和泉氏の得意術、切石の中に自然石の面影を残しながら、ダイナミックに造形し、石の質感を最大限に活用した空間づくりは、石の力を使ったランドスケープデザインのひとつの到達点と思います。
空間を捉える力、デザインする力、材料を選ぶ力、現場の力、トータルな力を合わせて初めて成立する造形力です。
自然と人間活動との関係が庭園を作る上での原点であり、それを表現しようとする作者の想いが教算坊庭園で感じられた。
ここ立山の無名の石組みを前にして、思わぬところで宝物を発見した喜びを皆様に報告します。
戸田芳樹